脂質代謝に着目した疾患研究と健康寿命の延長
生理活性脂質の機能が分子・細胞レベルの研究で明らかになってきたことを受け、各種疾患モデル動物に生理活性脂質を投与し、その治療効果を検討してきました。また、脳には脂質が豊富に存在しており、その代謝の破綻が老化や各種神経変性疾患において起こっていることが明らかになってきました。
さらに、タンパク質の構造異常による不溶化・凝集体形成が神経変性疾患の発症・進行の一因となっており、脂質をはじめとした不溶性成分の適切な代謝が健康寿命の延長につながると考えています。 そこで私たちは、脳および全身の脂質代謝に着目した研究を進めています。
アルツハイマー病や前頭側頭型認知症などの神経変性疾患では、脳内における異常タンパク質の蓄積が病態の進行に深く関わっています。私たちは、アポリポタンパク質E (ApoE) 依存的なアミロイドβ (Aβ) や不溶性成分のクリアランス機構の解明とともに、生理活性脂質がこれらの疾患に与える薬理効果について解析しています。
加齢に伴い、脳内の脂質組成の変化やグリア細胞などへの脂肪滴の蓄積が起こることが知られていますが、その生理的意義やクリアランス機構については不明な点が多く残されています。私たちは加齢脳における脂肪滴の蓄積メカニズムとその除去機構を明らかにすることで、脳老化の制御に向けた研究を進めています。
画像引用元:Hashimoto, Gotoh and Ikeshima-Kataoka (2025) "Astrocytic and microglial cell functions in neuroinflammatory diseases and their animal models" Frontiers in Cellular Neuroscience 19:1708775. https://doi.org/10.3389/fncel.2025.1708775 (CC BY)
老化に伴い血液脳関門 (BBB) の透過性が亢進することで、脳内への有害物質の流入が増加し、神経変性疾患のリスクが高まると考えられています。私たちは近年、老化の初期段階においてBBBの機能が低下し、脳内にSerum amyloid P component (SAP) が増加することを見出しました。今後はこの知見をもとに、老化に伴うBBB透過性亢進の機構解明を目指しています。
画像引用元:Sato F, Fujii A, Katagiri S, Uchiumi Y, Gotoh M, Miyamoto Y, Ishikawa M, Kawashima Y, Nakajima D, Konno R, Yura K, Nakagawa K, Ishizuka T, Hashimoto K. Induction of neurodegeneration in the hippocampus of senescence-accelerated mouse-prone 8 (SAMP8) mice by blood-brain barrier-crossing serum amyloid P component. Journal of Neuroinflammation (2026). https://doi.org/10.1186/s12974-026-03704-7 (CC BY-NC-ND 4.0)
DOHaD (Developmental Origins of Health and Disease) 学説は、胎生期・乳児期の栄養環境が成人後の疾患リスクを規定するという考え方です。私たちはモデル動物を用いて胎生期の栄養状態が脂質代謝に与える影響を解析し、生活習慣病や代謝疾患の発症リスクとの関連を明らかにすることを目指しています。