生理活性脂質の機能解明と創薬への展開
生理活性脂質のひとつである環状ホスファチジン酸 (図1A) は、がんの浸潤・転移抑制作用、神経成長因子様作用、および神経細胞保護作用など、多彩な生理機能を有しています。そこで、私たちは環状ホスファチジン酸の作用を創薬へ応用することを目指しました。
しかし、環状ホスファチジン酸は生体内で速やかに代謝されるため、構造を安定化させた各種誘導体を合成してきました。その中で2カルバ環状ホスファチジン酸 (2ccPA、図1B) は最も高い創薬ポテンシャルを示し、がんの浸潤・転移抑制作用、鎮痛作用、およびヒアルロン酸合成促進作用を有することを明らかにしました。
さらに2ccPAの神経保護作用を検討するため、①一過性脳虚血モデルラット、②外傷性脳損傷モデルマウス、③多発性硬化症モデルマウス、④全身性エリテマトーデスモデルマウス、⑤前頭側頭型認知症モデルマウスに2ccPAを投与したところ、すべてのモデルにおいて症状の改善が認められました。
現在、環状ホスファチジン酸のヒアルロン酸合成促進作用は化粧品原料として実用化されています。また、2ccPAの変形性膝関節症治療薬としての応用も期待されており、SANSHO株式会社において臨床試験 (治験) が進行中です。
化学合成により2ccPAに類する生理活性脂質を合成し、生理機能の解析を行っています。
生体内には未知の生理活性を担う脂質分子が多く存在していると考えています。ショウジョウバエやカイコなどの昆虫類や哺乳類の生体試料中の脂質成分をUPLCおよび質量分析により分析し、新規生理活性脂質の発見および機能解析を目指しています。
生理活性脂質や各種薬剤について作用機序を解明するため、受容体の活性化および下流のシグナル伝達経路について培養細胞系を用いて解析しています。
画像引用元:Maeda-Sano K, Gotoh M, Morohoshi T, Someya T, Murofushi H, Murakami-Murofushi K. Cyclic phosphatidic acid and lysophosphatidic acid induce hyaluronic acid synthesis via CREB transcription factor regulation in human skin fibroblasts. Biochimica et Biophysica Acta - Molecular and Cell Biology of Lipids 1841(9):1256–1263 (2014). https://doi.org/10.1016/j.bbalip.2014.05.004 (CC BY 3.0)
近年、同一のリガンドが同一の受容体に結合した場合でも、活性化されるシグナル伝達経路が異なる「バイアス作動 (biased agonism) 」が注目されています。このバイアスには、刺激後の時間経過によって変化するTemporal bias (時間的バイアス) や、細胞の種類によって異なるCell type bias (細胞種特異的バイアス) などがあります。私たちは生理活性脂質のバイアス作動について、複数の生理活性脂質間での活性比較を通じて作用機序の解明を目指しています。